郷土史あれこれ       

出版人・中市 弘

  出版社・甲鳥書林の社長として名を成した中市弘は明治44年11月12日、医師であった父一雄と母ふさ子の二男として、上野町字向島町で生まれた。
  上野の小学校を出たあと桃山中学を経て、昭和13年日本大学法学部を卒業。大学卒業間近かに胸を病んで約二年間、湘南のサナトリウムで療養生活を送り、ここで斎藤茂吉の弟米国と知り合い短歌を始めた。
  昭和15年5月、姉婿の矢倉年(本名稔)とともに、歌人・吉井勇の勧めで京都市下鴨に轄b鳥書林を設立。社名の「甲鳥」は、住いのあった下鴨の「鴨」の字を分解して吉井が名づけた。
  甲鳥書林は、吉井の歌集『天彦』を皮切りに、以後中谷宇吉郎、川田順、堀辰雄、林芙美子、横光利一、井伏鱒二らの文芸、学術、美術書を出版していった。
  昭和18年4月、戦時の企業整備によって天理時報社など数社を統合、新たに蒲{徳社を設立し、その代表取締役に就任した。
  しかし、終戦でその職を辞して郷里に蟄居。上野市西ノ丸に住居を新築した。
  昭和22年4月には再び居を京都下鴨に戻し、甲鳥書林を再興し、甲文社と名づけた。
  昭和35年には本社を東京に移転。主に文芸書の出版と月刊「衣食住」「陸海空」を発行。また『湯川秀樹選集』全5巻、松下幸之助著『私の行き方考え方』、石坂泰三著『泰川随談』など財界人の自伝、随筆集を始め、歌集、句集、文芸書等三八〇余種の単行本を発行した。著書に濱邉萬吉氏装丁『歌集山望』がある。昭和58年10月17日東京で死去。長田の西蓮寺に眠る。